海外勤務とメンタルヘルス2
1. 異文化との出会い
海外での生活は、最初は毎日が驚きの連続かもしれません。外に出れば、聞き慣れない言語が耳に飛び込んできますし、店に売っているものも目新しく感じます。レストランで注文する際も、どうすればお店の人に気付いてもらえるのか迷うことがあるでしょう。
ここで、私の失敗談を一つ。ドイツのレストランでメニューを注文する際、なかなか気付いてもらえなかったので、ウエイトレスに向かって勢いよく手を挙げました。すると、同席の友人に、それはドイツでは失礼な行為だと注意されたのです。ドイツでは、ウエイトレスが自分の方に目を向けるのをじっと待つのが礼儀だということでした。
ことほどさように、文化が異なるということは、単に言語や習慣が異なるだけでなく、その社会を支える価値観や社会的なルールも異なることを意味します。
海外生活を始めたばかりの段階で、不快な思いをした時、それが文化の違いによるものなのか、相手に悪意があるのかを判別するのは難しいことです。
「郷に入っては郷に従え」という言葉がある社会で育った我々にとって、意外な出来事が、文化の違いで起きているとわかれば、まだ納得しやすいかもしれません。しかし、もしかしたら差別されているのかもしれないし、嫌がらせかもしれないと思うと、どうでしょうか?
差別や嫌がらせだと明らかな場合は、「そういう人なのだ」と思うことでむしろ決着がつけやすいかもしれません。一方、文化の違いかもしれないし、差別かもしれないという宙ぶらりんな感覚だと、落としどころを見つけるのが難しくなります。
自分自身も現地の方に違和感を与えている可能性があることを忘れてはいけませんが、現地では、あなたが圧倒的な少数派であることは確かです。朝起きた時から夜寝る時まで、異文化に絶えず曝露される状況をどう乗り切っていくか。
ここでは、3つ提案したいと思います。
異文化対策の方法
1. 行く前からできること:
o シミュレーション: 現地に行く前から体験談や現地事情に触れる。
例えば、以下のような資料があります。
・現地在住者や在住経験者のエッセイ、ブログ、SNS
・現地のガイドブックや国の歴史を扱った書籍
・会社で先に駐在していた人から直接話を聞く
ただし、あくまでひとつの「見解」として考え、鵜呑みにしないようにしましょう。
2. 現地に着いてからできること:
o 地元を知る: 現地在住の日本人に自分が驚いたことを話してみる。
o 現地のコミュニティに参加して、わからないことは積極的に聞いてみる。
3. 「とりあえずBox」:
o 違和感を感じた時、それが当地の文化なのか、それとも単に相手が変わっているからなのか、よくわからないこともあるでしょう。そういう時には「とりあえずBox」(もちろん脳内にある想像上の箱です)に入れておく。別名「よくわからんけど、まあ、いいかBox」。判断しようとする労力を一旦手放しましょう。
渡航者医療センター 松永優子