海外勤務とメンタルヘルス9
5.逆カルチャーショック
さて、日本への帰国が決まりました。久しぶりに日本での生活が始まると、路上や電車の中で、他の人が話していることがわかる!お店の人が優しい!ごはん、最高!!
…と、しばらくは何もかもが楽に感じるかもしれません。海を越えた引越し後の忙しさはあるものの、手続きが日本語で行えるだけでも、肩の荷がおりる思いです。
このままつつがなく過ぎることも多いのですが、以前は当たり前のことだったのが、いったん離れてみると難しく感じる時があります。実は自分の国でもカルチャーショックを起こすことがあるのです。いわゆる「逆カルチャーショック」です。

例えば通勤電車。久しぶりのラッシュに揉まれて、朝から疲れ切ってしまう方もいるでしょう。なんで仕事ではないことで、こんなにエネルギーを使わなければいけないんだろうと改めて疑問を抱く方がいるかもしれません。都会であれば、自然が豊かな場所に出るにも時間がかかります。
コミュニケーションスタイルの違い。率直な意見を求められて、ストレートに自分の考えを述べたら、相手の表情がくもったりする。しまった、空気を読むべきだったと思っても後の祭り。赴任先ではあいまいな意思表示やどちらともつかない意見は尊重されなかったことを、相手は知りません。
連帯感。現地での生活は大変なこともあるだけに、その状況を分かち合える同胞がいました。その場合、むしろ日本に帰ってから孤独を感じることもあるでしょう。日本人コミュニティの集まりで家族ぐるみの付き合いを経験した方はなおさらかもしれません。
特別感の喪失。現地では企業の上役として、大使館や現地企業トップとわたりあうことがあったかもしれません。そうした機会がなくなり、寂しさを感じることもあります。

カルチャーショックは、単に文化や習慣が違うというだけでは発生しません。「本来こうあるべきなのに」と思うところに、ショックが芽生え、異文化を非難したり、正したりする試みがショックを育てます。これは、海外に行った時だけではなく、海外から日本に帰ってきた時にも起きうる症状なのです。
では、どうすればいいのか。月並みですが、まずは深呼吸。寝不足や疲労が蓄積している場合は、そちらを改善することを優先しましょう。少し、余裕ができたら、しんどいと思っていることをいろんな角度から眺めてみる。意外とメリットが見出せるかもしれません。
通勤電車が混雑するのは、社会機能が一か所にまとまっている利便性の裏返しとも言えますし、公共交通機関が発達しているので、車がなくても生活できるのは助かります。
コミュニケーションに関していえば、率直に意見を言わなくても、お互いの事情を察しながらすり合わせをしていけるのであれば、それも一つのやり方です。
連帯感、特別感はなくとも、肩ひじ張らずに生活できる気安さがあります。
自分が変えられること、変えられないことを区別して考えることも有効です。変えられることは、どうやって変えていくのか、行動計画に落とし込んでいきましょう。変えられないことは、どうすれば受容しやすくなるか考えてみることです。どうしようもないことは、いい意味で「あきらめる」。この場合は、時間が最良のくすりです。

通勤の例で言えば、変えられる人は職住近接を試みる、変えられない場合は、電車の中でどう過ごすかを考えてみる、などなど。
海外でカルチャーショックを乗り切ったあなたには、帰国後の逆カルチャーショックを乗り越える力もついていることを忘れないでください。
渡航者医療センター 松永優子



